2013年インターネットの旅 グラフィックデザイナーGraphersRockインタビュー

Maltine Recordsのキャラクターやロゴ、ジャケットを始め、でんぱ組.incの夢眠ねむとのコラボレーション作品、tofubeats、私立恵比寿中学、Kis-My-Ft2のジャケットデザインなどインターネットを軸にさまざまな方向で活動を展開しているグラフィックデザイナー”GraphersRock”。VJとしての活動も知られるが、サイバーパンクの影響を受けた機械・インターネット的なグラフィックが圧倒的な支持を集めている。今回は、創作の原点、影響、方法から思想面まで6,000字超に渡って語っていただいた。創作の関わる人もそうでない人も、何かしらのヒントをぜひ見つけて欲しい。
取材・テキスト:MISUMI

ネットがあることの豊かさ、ネットがないからこその豊かさ


 

作品をつくりはじめたきっかけはなんでしたか?

GraphersRock:幼い頃からずっと絵を描いたり工作したりするのが大好きだったんですが、その延長線上にMacがあったという感じです。クレヨンやハサミの上位レイヤーとしてMacの存在があった。パソコンを初めて買ったのは中学生の時で、PC-98っていうNECのコンピューター。まだMS−DOSとかBASICとかで動いてた時でそれをいろいろいじくりまわしてゲームやグラフィックをプログラミングするのに夢中でした。高校生の時にMacに買い換えて、そこではじめてPhotoshopやIllustratorのDTP環境をさわるようになって一気にグラフィック制作に夢中になった感じ。だから、もともとデザインをやりたいというよりも、Macやガジェットをいじりたいみたいなところから始まっている部分もありますね。

僕はGraphersRockさんのことをネットレーベル”Maltine Records”を通じて知ったんですが、関わり始めたのは初期の方から?

GraphersRock:マルチネは2007年にimoutoidが「ADEPRESSIVE CANNOT GOTO THECEREMONY」をリリースしたタイミングですね。YoutubeやMyspaceが出てきて、自作の曲をアップする人達が増えて来た頃かな。当時ネットを巡回していろんな音源を集めてた時にimoutoidとマルチネを知りました。

マルチネって何かキャラみたいなのがいますが、あれもGraphersRockさん作ですよね。

GraphersRock:あれを作ったのは2010年。tomadにマルチネのiPhoneアプリを出すから、それの起動画面をつくってくれと言われて、そこで「キャラっぽいものを描こうかな」と思ってつくったのが最初かな。

名前とかってあれあるんですか?

GraphersRock:ないからいつも”マルチネのキャラ”って呼んでる(笑)。なんか名前あったほうがいいよねあれ(笑)。誰か付けてくれるといいんだけど。マルチネのロゴも、ロゴをつくろうと思ってつくったんじゃなくて、マルチネのページのヘッダーのグラフィック用につくったものに「Maltine Records」っていう文字列があって、それが抜き出されてそのままロゴになった感じなんだよね。

“GraphersRock”という名前はそもそもどこからきているんですか?

GraphersRock:テクノを十代の頃から一貫してずっと聴いているんだけど、一時期80年代のオールドスクールヒップホップが好きだった時期があって。その影響でアメリカで「Graffiti Rock」というヒップホップカルチャーの番組があったんだけど、それを文字った感じです。名乗り始めたのはもう10年くらい前かな。

地味にけっこう長いんですね。

GraphersRock:じりじりやっている感じです。でも本質的な部分では90年代、インターネットが一般的になってきた時のいわゆるサイバーパンク思想だったりとか、マルチメディアブームあたりのサブカルチャーの影響をすごく受けているから、やっぱりマルチネみたいなネットを軸に活動するレーベルとの親和性はすごい高かったなという気はしますね。デザイン的なことでいうと、90年代って、今までアナログでちまちまやっていた作業が一気にDTPが出てきたことによって選択肢が増えた時期で。みんなそれを駆使しようとしていろんなことをガンガンやるんだけど、2000年代になると、あえてDTPでやっているという感覚を消すようなデザインをみんなし始めたのね。あえてアナログ的な表現をMac上でエミュレートしてみたり、手描きのラインを取り込んだりとか。それがまた一周してきているのが現在だと思います。それは例えばシーパンクだったりとか、そういった90年代を回帰するというムーブメントに現れているなぁと。

確かにtumblrなどを見ていても90年代リバイバルがきていると感じます。僕は直接90年代のカルチャーを体験していない世代なんですが、90年代ってどういう時代でしたか?

GraphersRock:僕はもちろん今も昔もインターネット大好きで元々パソコン通信から始まって、初めてネットに繋いだのが95年頃なんだけど、今のようにインターネットが発達してないからこその豊かさが当時はあった気がします。ネットがないから、情報を集めに行かないと手に入れられないわけで、レコード屋とかクラブとかに通わないとわからない情報や会えない人が多くて。それを求めてみんなが街に繰り出していた気がします。

裏原カルチャーもまさにそんな感じですよね。雑誌と口コミで一気にムーブメントが発生した。

GraphersRock:そうですね。ネットがないがゆえに情報を探しだす楽しさがあったし、情報の重みみたいなのも今と違うと思う、だからこそ人が集まる場所が今よりも活気づいていた気がします。

「MP3 killed The CD star ?」のジャケットはLanケーブルの中のファンタジーをイメージした


 

今までつくられた作品の中で特に印象に残っているものってありますか?

GraphersRock: DJ TECHNORCHの「STRAIGHT」リアルリパッチ限定盤で1枚1枚手作りのアナログコラージュでジャケットを500枚つくるっていうのをやったんだけど、あれが一番大変でしたね。全て完成するのに2ヶ月くらいかかりました(笑)。

丁度、マルチネのCDと同時期に制作をしていて、マルチネのはCDという音楽メディアの次を見据えた内容に対してこちらはCDという物理メディアに対してどうしたら新しい価値を付随できるかということを考えていました。

GraphersRockさんのジャケットだと、マルチネからリリースされた「MP3 killed The CD star ?」が印象的です。あれはどんな感じでつくられたんですか?

GraphersRock:ジャケットをどうしようかなと考えたときに、タイポグラフィでいこうというのは決めていて。CD屋の店頭に「MP3 killed The CD star ?」って文字が並んだら、風刺的な気がしたし、そこにもっとネット的イメージとして、Lanケーブルを覗いたらこういう風景が見えたら面白いかなということを意識しました。情報がネットの回線を通っている状況を可視化するとこういう感じかなというイメージ。デザイナーの仕事ってやっぱり見えないものを可視化するということだから、僕らが普段やりとりしている情報を可視化すると、こんなファンタジーが広がっていればいいなということを提示したジャケットになっています。

その他にもいろいろと作品を発表されていると思うんですが、作品作りの発想はどのへんから出てきているんでしょうか?

GraphersRock:ここ最近はtumblrですね。古本屋で埋もれているグラフィック本とか美術書を発掘してきてそこから発想を得ていたけど、最近はtumblrに流れてくる匿名性のコラージュやグラフィックから影響を受けることが多い。以前はtumblrに過去のグラフィックアーカイブみたいなものが流れてくることが多かったけど、最近はtumblr内でのみ流通するような独特のネット感を持ったグラフィックをアップする人達が増えている。

どういう感じでdigってます?

GraphersRock:デザインとかグラフィックに対する感度が高い人たちがいて、その人たちをフォローしていって、ひっかかるグラフィックからリンクを辿ったり、検索して掘っていく感じです。能動的に隅々までぐわーっとdigろうとはしていないけど、tumblrのチェックだけで1日1~2時間はかけてますね。完全に病気。朝起きたらとりあえずチェックみたいな。

最近面白いのはありましたか?

GraphersRock:ヴェイパーウェイヴみたいなものが面白いけど、最近はヴェイパーウェイヴもシーパンクも停滞していってる感じがするかなぁ。そこからどう変化していくのかというのが今の関心です。こないだtomadと話していて「なるほどな」と思ったんだけど、元々コンピューター上で作られていたヴェイパーウェイヴ的なグラフィックを実写化させていってるんだよね。実際に立体のオブジェクト並べたインスタレーションっぽい感じ。例えばこういうの。

 コンピューターでつくっていた雰囲気を、実写に置き換えているものが出てきていやばいなという話をしていました。このへんのグラフィックってネット的やコンピューター的なモチーフを現実的なものを組み合わせる面白さだと思うんですが、今度は逆にパソコンの中にあるものを外に出そうとしているなという感じがすごくする。

これからインターネット的なもの、tomadくんがいうところの”インターネッティ”なものっていうのは今後リアル空間にどんどん侵入してきますかね?ファッションではそういったインターネッティなものも出てきていますよね。

GraphersRock:自分はそこにすごく興味があるんだけど、ただどうしてもコアすぎて極地的なところにしか響かないような気がしていて。もちろんコアなところに響く物の面白さってすごく強いんだけど、なるべくポップで大多数に届くものをつくりたいという思いが最近の自分の中に芽生えてきてる。

ポップさを求めて今後はデザインの方向もがらっと変えていきますか?

GraphersRock:今までやってきたことって、自分の中の男子的なカッコイイ系のデザインが主体だったと思うんだけど、ポップというか文脈がなくても単純にカワイイと思ってもらえるものもやりたいっていう気持ちもあったり、でもそれがコアから外れるという意味ではないとも思ってます。

ファンタジスタ歌麿呂さんはまさにそういった存在な気がします。非常にポップだけどカオスなものを含んでいるというか。きゃりーぱみゅぱみゅもポップだけど毒々しいものだったりを含んでいて、その二面性ですよね。

GraphersRock:歌麿呂くんはマスにも食い込んでいってすごいバランス感覚でやっていてホント尊敬してます。そこのバランスはすごく難しいんだけど今後はそこらへんをトライしていければと。

「だっちゅーの」ではなく「コマネチ」をつくりたい


 

GraphersRockさんって目玉のモチーフが多いですよね。あとは三角とかの幾何学的な図形とか。そのへんはどうきているんですかね?

GraphersRock:やっぱり初代のサマー・オブ・ラブの頃の、原色使いの思いっきりサイケなグラフィックみたいなものが好きだから、そこからきているという気はするかな。オカルトや神秘主義みたいなものを信じてるからピラミッド的な三角形とか、そこからの引用だったり。あとは単純に人間の心理的な動きで対象としての「目」を意識する習性があるから、そこを意図して利用してる部分もあるかな。

SFもお好きですか?フェイバリットな映画としてスタンリー・キューブリックの「2001年宇宙の旅」をあげられていましたが、僕もあれ大好きなんです。

GraphersRock:SF映画大好きですね。暇な学生だった頃は家の向かいがレンタルビデオ屋だったこともあって毎晩、映画を見てた気がする。SFでいうと「2001年宇宙の旅」と「ブレードランナー」「攻殻機動隊」はベタなセレクトだけど、思いっきり影響を受けていて。幼い時に「つくば万博」に連れていってもらったんだけど、そこで強烈な21世紀感を植え付けられて、SFに対する憧れを抱く原体験になってる。それの影響が今でも作品にも反映されていますね。僕の子どもの頃ってちょうど世間的にもSFブームだったんだよね、「スター・ウォーズ エピソード4/新たなる希望」が公開されたくらいに生まれてて、最初のガンダムが放送されてロボットアニメブームがあって。

デザイン面でこの人はすごいなという存在はいますか?

GraphersRock:デザイナーズ・リパブリックには狂うぐらい影響を受けたかな。テクノを聴くようになった中学生の頃、90年代の”Warp Records”からリリースされた作品のジャケットをほとんどデザイナーズ・リパブリックが手がけていたこともあり、その影響で大好きになりました。あとはスケシンさん(SKATE THINGさん)にも影響を受けています。あとは信藤三雄さん、フリッパーズ・ギターやコーネリアスのジャケットをやっていた人ですね。この三人の存在はかなり大きいです。

作品をつくるにあたって大事にしていることはありますか?

GraphersRock:とにかく一過性のものをつくらないようにすることかな。刹那的な一発ギャグみたいなものは絶対につくりたくない。やっぱり流行や時代性があるから10年後とかに見たときに、一昔前のグラフィックだなって思われるのは仕方ないんだけど、「うぁー寒っ。。」っていうふうには思われたくない(笑)。例えばビートたけしの「コマネチ」って今誰もやらないけど、レジェンド的なギャグとして残ってる。でもパイレーツの「だっちゅーの」って今無理じゃん(笑)。だから「コマネチ」になるようなものを目指したいなと。刹那的な面白さしか求められてないデザインもあるけど、それは自分はやりたくないかな。どういったカタチであれ後々にも残るものであって欲しいという気持ちを込めて作ってます。

そういう意味では、継続的にデザインしているアニメ「ダンボール戦機」シリーズでは今、アニメを見てるチビっこ達が10年後もちゃんと思い出してくれるものにしたいと思って毎回デザインをしてます。成長したときに見直して改めてカッコいいと思ってくれたら最高に嬉しいです。

つまり普遍性があるものをつくりたいと。作品制作にもかなり時間をかけていらっしゃいますよね。

GraphersRock:作り込むほうだし手が遅いタイプだからけっこうかかっちゃうかな。。。制作行程としては作り始める前にラフをちゃんと描いていて、ラフの段階で7割ぐらい完成系が見えてる。残りの3割は、つくりながら変化していく要素が入る余地を残してる。あくまでMacって頭の中にあるイメージを出力するための役割だと思っているから、なんにもイメージがない状態でMacに向かっちゃうと、結局、どこに制作の手を向かわせばいいのかデスクトップ上で迷子になってしまう。だから、あらかじめ7割頭の中で設計図を思い浮かべてから、Macに向かって、残りの3割を偶然的なものやデスクトップ上で起きる事故のようなものに賭けるやり方をしていますね。「必然的な偶然」みたいな。偶発的な事故がうまくハマったときに、それまでの自分の想像をグラフィックが遥か上に飛び越える瞬間があって、その瞬間が最高に気持ちよくて苦しい道を走ってる感じ。

終わりに:外に出て花の蜜を吸っていこう


 

終盤になってきましたが、最近の「カワイイ(kawaii)」や女の子カルチャーについてGraphersRockさんはどう感じていますか?

GraphersRock:ここ何年かでカワイイの持つ意味合いも変わってきたよね。今は英語のcoolって意味にほとんど近い気がする。今まで「クールジャパン」っていわれていたものが「カワイイジャパン」になっている。価値観がクールからカワイイに、イケてるものはカワイイみたいな。

tumblrとか見ているとそれはすごく顕著ですね。「カワイイ(kawaii)」はただ可愛いだけじゃなくて、一見真逆に見えがちな「気持ち悪さ」「不気味さ」などを内包しているからすごく面白い。初期のきゃりーぱみゅぱみゅがそれをまさに絶妙に体現していたなと。最近の女の子や男の子についてはどうですか?

GraphersRock:女の子のファッションとか興味を持っているものも90年代にすごく戻っている気がするよね。だからすごく懐かしくもありすごくパワフルだなと感じてます。男の子って今何に夢中なのかな?今頑張ってナンパするような男の子もあまり見かけないよね。僕のまわりだけかもしれないけど、あまりギラギラしなくなったというか。

女の子の方がギラギラしている感がありますよね。Twitterのアイコンや画像なんかを見ていてもそれはすごく感じます。今後男の子が輝きを取り戻すにはどうしていけばいいんですかね?

GraphersRock:男の子はなんだろうね。もっとバカなことやったらいいんじゃないかな。だから晴れた日に外行って花の蜜とか吸ってきたらいいんじゃないかな(笑)。そういうプリミティブな体験からしか得られない無軌道感も重要かなーって。

最近「カッコイイ」という言葉のイメージの刷新をしなきゃなと思っていろいろ考えているんですが、「無軌道感」がひとつのヒントになるかもしれないですね。今日はいろいろとお話いただきありがとうございました。

プロフィール

GraphersRock

サイバーパンク、テクノカルチャーをベースにグラフィックワークを展開。メジャー、インディーズを問わず多岐に渡るCDジャケットやアパレルデザイン、広告媒体等、様々なメディアで作品を制作している。

GraphersRock
http://graphersrock.com/